築30年の家と“これからの暮らし”|50代・60代・70代のための住まいの備え方
新築当時30代だったご夫婦も、気がつけば60代。築30年を迎えた住まいは、見た目がきれいでも、設備や構造の内部では少しずつ“年齢相応の変化”が進んでいます。
そして、その少し先には、じきに60代を迎える50代世帯、すでに様々な不便に直面している70代世帯がいます。誰にとっても「今の家で、この先どう暮らしていくか」を考え始めるタイミングです。
このコラムでは、築30年の家を舞台に、緊急で対応すべきことと計画的に備えるべきことを分けて整理しながら、50代・60代・70代それぞれの世代に合った住まいの考え方をお伝えします。
第1章|「築30年」という節目が持つ本当の意味
1-1. 新築時30代だった世代が今、直面する現実
築30年ということは、家を建てたとき30代だったご夫婦は、今や60代。子どもたちは独立して住まいを出て行き、ご夫婦2人、あるいはどちらかお一人で暮らしている方も少なくありません。
当時は「子育て世代が暮らしやすい家」をイメージして間取りや設備を選ばれたはずです。広いリビング、段差のある和室、2階に子ども部屋…。あの頃の“ベストな家”が、そのまま今の暮らしにぴったり合っているかと言うと、実はそうとは限りません。
年齢とともに体力・視力・筋力は自然と変化します。階段の上り下り、浴室のまたぎ、夜間のトイレの移動。若い頃には何でもなかった動作が、60代・70代になると「少し不安」「できればあまりしたくない」と感じるようになっていきます。
1-2. 住宅の寿命と人生のステージは連動している
住まいにも“ライフサイクル”があります。屋根・外壁・給湯器・水まわり・内装…。それぞれの設備にはおおよその寿命があり、10〜20年ごとにメンテナンスが必要です。
築30年というのは、まさに「一通りの設備が一巡し、二周目・三周目に入っていく入口」の時期。人生で言えば、子育てから自分たちの健康・これからの暮らし方を見つめ直す“セカンドステージ”に近いタイミングです。
つまり、家の節目と人生の節目が、ちょうど重なっているのが築30年なのです。
1-3. 「壊れる家」と「備えられる家」の分かれ道
築30年の家には、大きく分けて2つのパターンがあります。
- 不具合に気づきながらも、そのまま使い続けて「壊れてから対応する家」
- 小さな変化のうちに気づき、早めに点検・予防をして「備えながら暮らす家」
どちらが正解というわけではありませんが、後者のほうが「選択肢の多さ」「費用の計画」「心の余裕」という意味で、大きな差が生まれます。
特に、冬場の給湯器や水まわりのトラブルは、気づいたタイミングが「すでに手遅れに近い」場合が多いのも実情です。だからこそ、築30年は、「まだ動いているけれど、この先も安心して使えるか」を考え始めるサインだと捉えることが大切です。
1-4. 50代・60代・70代で考えるべき住まいの視点の違い
同じ築30年の家でも、住んでいる方の年代によって、見るべきポイントは変わります。
- 50代:「親の家」「自分の家」どちらも視野に入れて、これから10〜20年の計画を立てる時期
- 60代:今の家で“あと何年”“どんな暮らし方をしたいか”を具体的に考え始める時期
- 70代:すでに「ちょっと不便」「少し怖い」と感じる場面が増え始め、早めの安全対策が重要になる時期
このコラムでは、これら3つの世代を意識しながら、「緊急なこと」と「計画的に備えること」を分けて、分かりやすく整理していきます。
1-5. 築30年は“老後の準備段階”のスタートライン
老後の準備と言うと、「まだ先のこと」と感じるかもしれません。しかし、設備の更新や間取りの見直しは、一度にすべて行う必要はなく、むしろ少しずつ、段階的に整えていく方が負担も少なく、満足度も高くなります。
築30年は、「これから20年をどう暮らすか」のスタートライン。今まで頑張ってきた家に、これからも安心して住み続けるために、いま一度向き合ってみる価値があります。
第2章|家族の帰省で見えてくる“住まいの本音”
2-1. 子ども世代のひと言で気づく住宅の変化
年末年始やお盆など、子ども世代や孫が帰省したときに、こんな言葉を言われたことはありませんか?
- 「お風呂、前より寒くない?」
- 「この家、けっこう段差多いね」
- 「換気扇の音、かなり大きいけど大丈夫?」
- 「お湯が出るまで、結構時間がかかるね」
住んでいる本人からすると「昔からこうだし」「そんなものだよ」と思っていることでも、他の家に住んでいる家族から見ると、違和感としてはっきり見えることがあります。
この「外からの視点」は、築30年の家が自分では気づきにくくなっている変化に気づかせてくれる、とても大切なきっかけです。
2-2. 親世代が慣れてしまった不便
60代・70代になると、「不便だけど、なんとかなるから大丈夫」と、つい我慢するクセがついてしまうことがあります。
たとえば、
- 冬の浴室の冷え込み
- 古くなった給湯器の不安定なお湯の出
- 暗い階段・廊下
- 深くかがまないと届かない低い収納
どれも「すぐに命に関わるものではない」かもしれません。しかし、小さな不便の積み重ねは、暮らしの満足度や安全性を確実に下げていきます。
2-3. 50代世帯が見過ごしやすい違和感
50代は仕事も家庭も忙しく、「じっくり家のことを考える余裕がない」という方がほとんどです。その一方で、親の家も自分の家も、どちらも築年数が進み、設備や構造の疲れが表に出始めています。
この世代が見過ごしやすいのは、
- 「何となく不便」だけど、「すぐ困るわけではない」状態
- 「そのうちやろう」と思いながら、後回しになっている状態
しかし、不便に慣れてしまう前に気づけた人ほど、ゆとりをもって準備や対策を進めることができます。
2-4. 60代が直面し始める体の変化と住まいの不一致
60代になると、多くの方が「体力の変化」を感じ始めます。
- 階段の上り下りが少しつらくなる
- 浴槽のまたぎが高く感じる
- 夜中のトイレの移動が不安になる
築30年の家は、当時の生活スタイルや体力に合わせて作られています。そのため、今の体の状態や暮らし方と、家のつくりにギャップが生まれやすくなります。
このギャップに早めに気づき、「どこを整えれば、今とこれからが安心になるか」を考えることが、60代の住まいづくりの重要なテーマです。
2-5. 70代が抱える「不安」と「本音」
70代になると、「もしここで転んだら…」「もしここでお湯が出なくなったら…」といった“不安”が、より現実味を帯びてきます。
しかし一方で、
- もう大きな工事はしたくない
- 今さらお金をたくさんかけたくない
- 工事中の生活が大変そうで不安
という本音もあります。
だからこそ、70代にとって大切なのは、「全部を直そう」とするのではなく、「本当に必要なところだけを、無理なく整える」発想です。そのためには、緊急性の高いところと、計画的に考えるところを整理することから始めるのがおすすめです。
第3章|緊急性が高い住宅トラブルとは(築30年住宅編)
3-1. 緊急性の高いトラブルの特徴
まず最初に整理しておきたいのは、「今すぐ対応しないと生活に大きな支障が出るもの」です。これらは“緊急対応”のゾーンに入ります。
- お湯が出ない、あるいは出たり出なかったりする
- ガス機器の点火不良や異臭
- トイレが頻繁につまる、水が止まらない
- 洗面所や浴室で水漏れが続いている
- ブレーカーがよく落ちる、焦げたようなにおいがする
これらは、「様子を見る」ではなく「できるだけ早く専門家に状況を見てもらうべき」サインです。
3-2. 気づいたときに待ったなしになる危険サイン
特に築30年を過ぎると、給湯器・ガス機器・水まわり配管など、目に見えない部分での劣化が進んでいます。
例えば、
- 給湯器からの大きな異音や、黒い煙
- お湯の温度が急に上がったり下がったりする
- 配管まわりの湿り気やカビ
こうした症状が出た場合、「様子を見よう」としているうちに、ある日突然まったく使えなくなることも珍しくありません。
3-3. 冬場に起きやすい住宅設備トラブル
冬場は設備トラブルが表面化しやすい季節です。気温の低下により機器への負担が増え、給湯器や配管の弱っている部分が一気に“限界”を迎えてしまうことがあります。
特に、「年末年始の家族が集まっているタイミング」でトラブルが起きると、心理的な負担も大きくなります。「早く直したいのに、すぐに動ける業者が限られてしまう」状況に陥ることもあり得ます。
3-4. 70代世帯が特に注意すべき緊急サイン
70代の方にとって、設備トラブルは単なる「不便」ではなく、生活の安全に直結します。
- お湯が出ない → 体を十分に温められない
- トイレの水が流れない → 外出先に頼らざるを得ない
- 急な電気トラブル → 暗い室内で転倒リスクが高まる
「なんとかなるから大丈夫」と無理をするのではなく、異変を感じたら早めに相談することがご自身を守ることにつながります。
3-5. 60代が油断しやすい「まだ大丈夫」という思い込み
60代は「まだ若い」「自分で何とかできる」という感覚が強く、ついトラブルを先送りにしてしまいがちです。しかし、築30年の家に起きるトラブルは、「ちょっとした不便」の裏に、「構造や設備の深い部分での劣化」が隠れていることもあります。
特に、「音」「におい」「水の流れの変化」は、緊急ゾーンの一歩手前であることも多いため、早めの確認と予防を心がけることが大切です。
第4章|すぐに確認すべき緊急チェックリスト
4-1. 給湯器の緊急サイン(築30年編)
次のような症状がある場合は、できるだけ早く点検を検討してください。
- お湯の温度が安定しない(熱くなったりぬるくなったりする)
- 運転音が以前より大きくなった気がする
- 本体まわりにサビや変色が見られる
- 使用年数が10年以上経過しているのに、一度も点検をしていない
4-2. キッチン設備の危険兆候
キッチンまわりでは、次のような変化があれば要注意です。
- ガスコンロの火がオレンジ色っぽい/安定しない
- 点火までに時間がかかることが増えた
- レンジフードの吸い込みが弱く、においが残りやすい
4-3. 浴室・洗面所で起こりやすいトラブル
浴室や洗面所は、湿気がこもりやすく劣化が見えにくい場所です。
- 床がふわふわする場所がある
- 壁や天井のカビが取れにくくなってきた
- 排水口からのにおいが強くなってきた
4-4. トイレの異変と詰まりの前兆
トイレは毎日使う場所だからこそ、少しの変化に早く気づくことが大切です。
- 流した後の水の減り方が以前と違う
- 流すたびにゴボゴボという音がする
- 水が流れきらず、何度もレバーを操作してしまう
4-5. 電気・ガス・水道のトラブル兆候
電気・ガス・水道のトラブルは、安全面も含めて慎重に扱う必要があります。
- ブレーカーがよく落ちる
- コンセントまわりが熱を持っている/変色している
- ガスのにおいを感じることがある
- 水道メーターが使っていないのに回っている気がする
少しでも「おかしいな」と感じたら、「様子を見る」ではなく「まずは相談」すること。それが、大きなトラブルを未然に防ぐ一番の近道です。
まずは「気づくこと」から。ご相談だけでも大歓迎です。
築30年を迎えた住まいは、「まだ使える」からこそ、変化に気づきにくいものです。家族の帰省で少しでも気になる点があった方は、それが大きなトラブルを防ぐための“最初の一歩”かもしれません。
当社では、いきなり工事をすすめることはありません。まずは、
- 今の設備や水まわりの状態を一緒に確認する
- 「緊急で対応したほうがよいこと」と「時間をかけて考えればよいこと」を整理する
- 50代・60代・70代、それぞれの暮らし方に合った優先順位を一緒に考える
といった“予防と準備”のサポートを行っています。
「まだ工事をするかどうか分からない」「相談だけでもいいのかな?」という方ほど、お役に立てることがたくさんあります。どうぞお気軽にお声がけください。
第5章|緊急トラブルが暮らしに与えるリアルな影響
5-1. お湯が使えない生活がもたらす不便
「お湯が出ない」というトラブルは、実際に経験してみると想像以上の負担になります。顔や手を洗うとき、冷たい水だけで済ませるのは冬場には相当つらいものがありますし、食器洗いも油汚れが落ちにくくなり、家事の時間と手間が一気に増えます。何より困るのは、入浴です。シャワーでさっと汗を流すこともできず、体を温めることが難しくなると、冷えからくる不調や、持病がある方にとっては体調悪化のきっかけにもなりかねません。「今日はお風呂を我慢すればいい」という話ではなく、「明日も明後日もどうしよう」という不安が頭から離れなくなります。
築30年の家では、給湯器自体が10年以上前の機種であることも多く、壊れたタイミングによっては同等品がもう製造されていないケースもあります。そうなると、慌てて別の機種を選ばざるを得なくなり、「本当はもっと比較して選びたかった」という後悔につながることも少なくありません。お湯が出ない生活は、身体的な負担だけでなく、心理的なストレスと判断のプレッシャーを同時に抱える状態といえます。
5-2. トイレトラブルが与える精神的ストレス
トイレのトラブルは、生活の中での優先度が非常に高い問題です。詰まりや水漏れが起きると、「次に使うときは大丈夫だろうか」と毎回不安になりますし、来客がある日や家族が帰省しているタイミングで起こると、恥ずかしさや焦りも加わります。特に70代の方にとって、夜間にトイレが使えない状況は、別の場所を探さなければならず、転倒リスクや体調への負担も増します。「万が一また詰まったらどうしよう」と心配しながら過ごすのは、想像以上に精神的エネルギーを消耗します。
また、「トイレが不安だから外出を控える」「人を呼ぶのを遠慮してしまう」といった形で、行動範囲や人付き合いにも影響してきます。こうなってしまうと、単なる設備の故障ではなく、暮らしの楽しさそのものを削ってしまう結果になりかねません。築30年を超えたトイレ設備は、機能的にはまだ動いていても、内部部品の摩耗や配管の劣化が進んでいることも多いため、「なんとなく流れが悪い」「においが残りやすい」といった小さなサインのうちに、一度点検を検討することが、心の安心にもつながります。
5-3. 冬場の設備不良と体調への影響
冬場の設備トラブルは、体調への影響が大きくなります。特に浴室や脱衣所が寒い状態で、さらに給湯器の不調でお湯の温度が安定しないとなると、「今日はお風呂をやめておこう」と入浴を控えてしまう方も少なくありません。しかし、体を温めない日が続くと、血行不良や肩こり、冷え性の悪化などにつながり、持病のある方にとっては症状の悪化を招く可能性もあります。逆に、寒い浴室で急いで熱いお湯を浴びるような入浴は、血圧の急な変化を引き起こしやすく、高齢の方には危険なパターンでもあります。
また、暖房器具の不調や電気系統のトラブルで、十分な暖房が使えない状態になると、室内であっても寒さを我慢しなければならず、風邪やインフルエンザなどの感染症への抵抗力も下がりやすくなります。築30年の家では、断熱性能が今の新築住宅ほど高くない場合も多く、設備トラブルが起きたときの影響が大きく出やすいのが現実です。「寒いけれど何とかなる」と我慢を重ねるのではなく、「寒さを我慢せずに過ごせること」を当たり前として考える視点が大切です。
5-4. 「突然の出費」がもたらす不安
給湯器、トイレ、キッチン設備、配管…。これらが突然壊れてしまったときに困るのが、「想定していなかった出費」です。たとえば、給湯器の交換で30万〜40万円、トイレの交換で10万〜20万円、配管の補修が入るとさらにプラス、ということも珍しくありません。こうした金額を、事前の心構えもなく一度に支払うのは、多くのご家庭にとって大きな負担です。「本当はもう少し検討したかった」「他の見積もりも見てみたかった」という気持ちを抱えたまま、時間のない中で決断しなければならない状況は、精神的なストレスにもなります。
また、「今回の出費で、ほかに必要だったことを我慢しなければならなくなった」と感じると、住まいのトラブルそのものよりも、「お金を使ってしまった」という後悔が長く心に残ることもあります。だからこそ、本来は「壊れる前にある程度の予測を立てておく」ことが重要なのですが、日々の暮らしの中でそこまで意識を向けるのは簡単ではありません。築30年という節目に、「この先、どのあたりで何に費用がかかりそうか」をざっくりでも把握しておくことは、家計の安心にもつながります。
5-5. 家族関係に影響を与えるトラブル
設備トラブルは、直接的には「モノ」の問題ですが、実は家族関係にも影響を与えることがあります。たとえば、帰省した子ども世代が「お風呂が寒くてびっくりした」「トイレの流れが不安だった」と感じているのに、親世代は「大げさだよ」「昔からこんなものだ」と受け止めてしまうと、少しずつ意見のすれ違いが積み重なっていきます。「親の家のことに口出ししにくい」「心配だけど何も言えない」と感じる子ども世代も多いものです。
逆に、親世代のほうでも、「心配をかけたくない」「お金の話をしたくない」という気持ちが働き、実際には困っていることをなかなか言い出せないこともあります。そこへ突然のトラブルが起きると、「あのとき話しておけばよかった」「相談しておけば違ったかもしれない」という後悔が、家族それぞれの胸に残ってしまいます。設備トラブルそのものは修理や交換で解決できますが、気持ちのすれ違いは、時間を戻してやり直すことができません。だからこそ、「まだ大丈夫」と我慢する前に、「少し気になることがある」と家族で共有しておくことが大切です。
第6章|計画的リフォームという考え方
6-1. 壊れる前に考える人が増えている理由
最近は、「壊れてから慌てて直す」のではなく、「壊れる前に備えておきたい」と考える方が増えています。その背景には、突然のトラブルによる生活の混乱や予想外の出費を、身近な人の経験やニュースなどを通じて知る機会が増えたことがあります。また、インターネットで情報が得やすくなったことで、「設備には寿命がある」「事前に考えておくという選択肢がある」という意識が広まっているのも一因です。
築30年の家にお住まいの方の中には、「親の家のトラブルを見てきたから、同じことにならないようにしたい」と考える50代・60代の方も多くいらっしゃいます。早めに状況を把握し、「今すぐやるべきこと」と「数年かけて整えればよいこと」を分けておくことで、心の余裕も、家計の計画もぐっと立てやすくなります。計画的なリフォームとは、単に工事の順番を考えることではなく、「暮らし方とお金の使い方を、自分たちのペースで選べる状態」にしておくことだと言えます。
6-2. 住宅設備の寿命を知るという安心
給湯器はおおむね10〜15年、ガスコンロは約10年、レンジフードやトイレ、洗面化粧台は15〜20年、ユニットバスやシステムキッチンは20〜25年といった具合に、住宅設備にはそれぞれ“寿命の目安”があります。もちろん、使い方や設置環境によって前後はしますが、「永遠には使えない」ということを前提に考えておくことが大切です。
寿命を知ることは、「壊れるから不安」というネガティブな感覚ではなく、「だいたいこの時期に見直せばいい」という目安を持てる、前向きな行動のきっかけになります。たとえば、「今はまだ使えるけれど、次のボーナスのタイミングで交換を検討しよう」「子どもが独立した後にまとめて水まわりを見直そう」といった形で、自分たちのライフプランに合わせた準備ができるようになります。
6-3. 10年単位で考える住まい管理
住まい全体を一度に完璧にしようとすると、費用も時間も大きな負担になってしまいます。そこでおすすめなのが、「10年単位で住まいを見直す」という考え方です。築10〜20年のタイミングで一度、築20〜30年のタイミングで一度、そして築30年以降は、設備の状態を見ながら優先度が高いところから整えていくイメージです。
たとえば、「まずは給湯器とコンロ」「次の段階で浴室と洗面」「その次にキッチンや窓まわり」といったように、数年おきにポイントを絞って手を入れていくことで、一度に大きな負担をかけずに住まいの状態を保つことができます。これは、50代の方が「60代・70代を見据えて」考える時にも、60代の方が「70代を快適に過ごすため」に考える時にも、共通して役に立つ視点です。
6-4. 大規模工事を避けるための小さな準備
大規模なリフォームは、費用だけでなく工期も長くなり、生活への影響も大きくなります。もちろん、必要に応じて大きな工事を行うことも大切ですが、「気づいたらあちこち悪くなっていて、一度に大工事をせざるを得なくなった」という状況は、できれば避けたいところです。そのために有効なのが、「小さな準備をこまめに積み重ねる」という発想です。
たとえば、給湯器を新しいものに替えるタイミングで、将来の浴室リフォームも見据えて追い焚き機能対応の機種を選んでおく、コンロやレンジフードを交換するタイミングで、掃除のしやすさや省エネ性も考慮しておくなどです。こうした“小さな一歩”が、結果的に大きな工事を先延ばししたり、内容をシンプルにしたりすることにつながります。
6-5. 計画的に進める人の共通点
計画的に住まいを整えているご家庭には、いくつかの共通点があります。ひとつは、「完璧を目指して一度にやろうとしない」こと。もうひとつは、「困っていないうちから、少しずつ情報を集めている」ことです。気になることがあったときにメモしておいたり、家族で「次に直すとしたらどこかな?」と話題にしたりするだけでも、いざというときの判断がスムーズになります。
また、「相談しやすい業者をあらかじめ見つけておく」ことも大きなポイントです。いきなり工事の話をするのではなく、「今の家の状態を一度見てもらって、緊急と将来のポイントを整理したい」と相談しておくことで、安心して長期的な計画を立てられるパートナーを持つことができます。
第7章|築30年住宅に必要な“予防型”チェックポイント
7-1. 給湯設備の老朽化
給湯設備は、毎日当たり前のように使っていますが、その役割は非常に大きいものです。築30年の家では、すでに一度交換しているケースもあれば、新築時から20年以上使い続けているケースもあります。見た目がきれいでも、内部の部品は経年によって少しずつ摩耗し、限界に近づいていることがあります。
「お湯の出が遅くなってきた」「温度が一定でない」「運転音が大きくなった」といった変化は、老朽化のサインのひとつです。完全に壊れてしまう前に、使用年数とあわせて一度専門家にチェックしてもらうことで、突然の故障や真冬のトラブルを防ぐことにつながります。
7-2. 配管の劣化
配管は、床下や壁の中など見えない場所を通っているため、普段はほとんど意識されません。しかし、水道管や排水管の劣化は、長い時間をかけて静かに進行します。築30年ともなると、配管材の種類によっては錆びやすいものや、継ぎ目の劣化が起きやすいものもあり、見えないところでトラブルの準備が進んでいることもあります。
「最近、床下からかすかに湿った感じがする」「特定の場所だけにカビが広がりやすい」といった症状がある場合は、配管からのにじみや水漏れが原因の可能性もあります。大きな漏水になる前に、点検や部分的な更新を行うことで、床や構造材へのダメージを防ぐことができます。
7-3. 水まわりの床・壁
浴室・洗面・トイレなどの水まわりは、どうしても湿気がたまりやすい場所です。床や壁の表面は一見問題ないように見えても、内部では下地の木材やボードがじわじわと傷んでいることがあります。築30年の家で、「床が少しふわっとする」「クッションフロアの一部が沈む感じがする」という場合、単なる表面の傷みではなく、下地材の劣化が進んでいるサインであることも少なくありません。
また、同じ場所に何度もカビが生える、クロスが浮いてくる、といった現象も、内部に湿気がこもっている可能性を示しています。放置すると、見た目の問題だけでなく、悪臭や構造材の腐食、シロアリ被害などにつながることもあるため、「少し変だな」と感じた段階で、一度点検を検討することをおすすめします。
7-4. 屋根・外壁
屋根や外壁は、雨風や日射から家全体を守る盾のような存在です。築30年の家では、一度もメンテナンスをしていない場合、塗装の劣化やひび割れ、コーキングの痩せなどが進んでいることがあります。これらは、すぐに雨漏りにつながるとは限りませんが、放置する期間が長いほど、内部への水の侵入リスクが高くなります。
屋根裏にシミがある、外壁に手で触れると白い粉がつく(チョーキング)、外壁の継ぎ目のゴムのような部分が割れている、といった症状は、メンテナンスのタイミングを知らせるサインです。外回りのメンテナンスは費用もかかりますが、早めに対応することで、「外壁材や下地まで傷んでしまい、大規模な補修が必要になる」という事態を避けやすくなります。
7-5. 断熱・サッシ
築30年の家は、建てられた当時の断熱基準でつくられているため、今の新築住宅と比べると断熱性能が劣ることが少なくありません。冬場に窓ガラスが結露しやすかったり、窓際だけ極端に冷えたりするのは、サッシやガラスの性能が原因になっている場合もあります。「暖房をつけても足元が冷える」「部屋ごとの温度差が大きい」といった悩みは、断熱とサッシの見直しで改善できることも多くあります。
また、古いサッシでは、戸車の劣化や建付けのゆがみにより、開け閉めが重くなっていることもあります。これは転倒リスクやストレスにつながるだけでなく、すき間風や防犯性の低下にもつながります。すべてを一度に交換する必要はありませんが、よく使う場所や寒さが気になる場所から、少しずつ改善していくことで、住まい全体の快適性が大きく変わってきます。
第8章|生涯使用回数で考える住まいのメンテナンス
8-1. 設備は一生使えないことを知る
「せっかくお金をかけて工事をするなら、一生ものにしたい」──そう思うのは自然なことです。しかし現実には、ほとんどの住宅設備は「一生もの」ではありません。給湯器やコンロ、水栓、トイレ、浴室、キッチンなど、それぞれに寿命があり、一定の期間ごとに交換や大きなメンテナンスが必要になります。
この事実を知っておくことは、「結局何度もお金がかかるのか」という不安ではなく、「あらかじめ交換のタイミングをイメージしておける」という安心につながります。たとえば、「給湯器は10〜15年で数回、浴室は20〜25年で2〜3回、トイレや洗面は15〜20年で数回」といった目安を持つことで、「今回はここを整えて、次はこのタイミングで別の場所を見直そう」と、長いスパンで考えられるようになります。
8-2. 50代が意識したい交換タイミング
50代の方にとって大切なのは、「今の家をこれから20年どうしていくか」という視点です。築30年前後であれば、すでに一度は水まわりや外装のメンテナンスをしてきているかもしれませんし、これから初めて本格的に見直すという方もいるかもしれません。いずれにせよ、「あと何回、どの設備を交換する可能性があるのか」をざっくり把握しておくことで、家計とライフプランの両方を考えやすくなります。
たとえば、「60代前半までに給湯器とコンロを新しくしておく」「70代までに浴室とトイレの安全性を高める」といった、大まかなロードマップを持つイメージです。すべてを細かく決める必要はありませんが、「どの年代で何をしておくと安心か」を意識しておくことで、突然のトラブルにも慌てずに対応しやすくなります。
8-3. 60代にとっての優先順位
60代は、「これからの暮らし方」と「体の変化」の両方を意識しながら住まいを考える時期です。優先順位としては、まず「安全に関わる部分」が第一です。たとえば、浴室の段差や床の滑りやすさ、出入り口の段差、階段の手すりの有無などです。その次に、「日々の負担を減らす部分」、つまり掃除や家事のしやすさ、動線のスムーズさなどが挙げられます。
築30年の家では、設備更新と同時に「使い勝手」を見直すことで、暮らしの質が大きく変わります。たとえば、コンロを最新の安全機能付きに変えることで、火の不始末への不安が減ったり、掃除がしやすいレンジフードにすることで、日々の家事のストレスが軽くなったりします。「我慢していたことを減らしていく」という視点で、優先順位を整理していくと良いでしょう。
8-4. 70代が備えるべきポイント
70代になると、「大がかりな工事はもう控えたい」と感じる方も多くなります。その一方で、「今のままでは少し危ない」「毎日の動作がつらい」といった本音も出てきます。この年代で大切なのは、「無理をしないための備え」です。たとえば、浴室やトイレ、寝室からトイレまでの動線など、毎日必ず通る場所の安全性を高めることは、転倒やケガを防ぐうえで非常に重要です。
また、「もし設備が壊れたとき、誰に相談するか」を決めておくことも、大きな安心材料になります。連絡先を冷蔵庫や電話の近くにメモして貼っておくだけでも、「いざというときにどうしよう」という不安を減らすことができます。70代以降は、「大きく変える」というより、「必要なところをピンポイントで整える」イメージで考えていくと、心身ともに無理のない住まい方が実現しやすくなります。
8-5. 長く使える設備選び
設備を選ぶとき、「できるだけ安く済ませたい」という気持ちは自然なものです。しかし、築30年の家でこれから交換する設備は、「おそらく人生の中であと数回しか交換しないもの」でもあります。その意味では、「安さだけで選ぶ」のではなく、「長く使ってもストレスにならないか」「掃除やメンテナンスが自分たちの力で続けられるか」といった視点も大切です。
たとえば、毎日使うコンロや水栓は、ワンランク上の掃除しやすいタイプを選ぶことで、「毎日の小さなストレス」を減らすことができます。浴室やキッチンなどの大きな設備も、多少初期費用がかかっても、「長く使っても飽きないデザイン」「お手入れがしやすい素材」を選ぶことで、結果的に交換頻度を減らし、満足度の高い暮らしにつながります。「高いものがいい」のではなく、「自分たちの暮らしにとって、長く付き合えるかどうか」を基準に考えるのがポイントです。
第9章|失敗事例から学ぶ住まいの判断
9-1. 急いで決めてしまった後悔
緊急のトラブルが起きたとき、多くの方が「とにかく早く直してほしい」という気持ちになります。お湯が出ない、トイレが使えない、ガスが不安定といった状況では、冷静に情報を集めたり、複数の選択肢を比較する余裕がなくなってしまいます。その結果、たまたま最初に電話がつながった業者にそのまま依頼し、「価格の妥当性が分からないまま工事をお願いしてしまった」「本当は別の機器も選べたと後から知った」という後悔が残るケースは少なくありません。
また、時間に追われている状態では、「本当に必要な工事」と「念のためにと言われた追加工事」の区別がつきにくくなります。その場の説明を聞いているつもりでも、不安な気持ちの方が強くて、言われるままに契約してしまうこともあります。後日、冷静になってから見積書を見直し、「もう少し考えてから決めればよかった」「家族にも相談しておけばよかった」と感じる方も多いものです。こうした後悔を防ぐためにも、平時のうちに「相談できる先」を持っておくことがとても大切です。
9-2. 想定外の出費に戸惑った事例
築30年を過ぎた住まいでは、「まさかこんなにかかるとは思わなかった」という出費が発生することがあります。給湯器の交換だけのつもりが、配管の腐食が見つかって追加工事が必要になったり、トイレの交換の際に床の傷みが見つかり、下地の補修も行うことになったりするケースです。見積もりが当初の想定より大幅に増え、「このタイミングでここまでの出費は…」と悩まれる方も少なくありません。
このようなケースの多くは、「事前に一度も点検や相談をしていなかった」「寿命やリスクを知らずに、ギリギリまで使い続けていた」ことが背景にあります。決してご本人の責任ではありませんが、結果として「全部一度にまとめて対応しなければならない状況」を招いてしまうことがあります。逆に、数年前から少しずつ状況を確認していたご家庭では、「このくらいの費用がかかるかもしれない」と心構えができているため、想定外のショックが小さくて済む傾向があります。
9-3. 家族と相談できずにひとりで抱え込んだ例
特に60代・70代の方の中には、「子どもに迷惑をかけたくない」「お金の話をしたくない」といった思いから、住まいの問題をひとりで抱え込んでしまう方もいます。給湯器の不調やトイレのトラブルが続いていても、「何とか使えているから」と我慢を重ね、いよいよ限界を迎えてから慌てて対応することになってしまうことがあります。その結果、「もっと早く相談してくれれば良かったのに」と家族に言われ、ご自身も「本当はそうしたかった」と胸が痛む、という事例も少なくありません。
また、ひとりで決めてしまった工事の内容に、後から子ども世代が「もっと別のやり方もあったのではないか」と感じることもあります。これは、どちらかが悪いという話ではなく、「話し合う時間が持てなかった」ことが原因です。住まいのことは、将来的に相続や住み替えにもつながってくるテーマです。だからこそ、「相談することが迷惑になるのでは」と遠慮するのではなく、「一緒に考えてほしい」と素直に伝えることが、結果的にお互いの安心につながります。
9-4. 事前に話し合っていた家庭の安心感
一方で、節目のタイミングごとに「家のこと」を家族で話し合ってきたご家庭では、トラブルが起きたときの心構えが違います。たとえば、「給湯器はそろそろ交換時期だから、次に不調が出たら迷わず替えよう」「浴室は親が70代のうちに安全な仕様にしておこう」といった方針を共有していると、いざ症状が出たときも、「やっとタイミングが来たね」「予定通り進めよう」と前向きな気持ちで判断できます。
また、事前に「このくらいの費用は必要になるかもしれない」とおおまかに話し合っていると、急な見積もりを見ても動揺しにくくなります。家族で情報を共有していること自体が、「自分ひとりで決めなくて良い」という安心感を生みます。こうした家庭では、工事後も「みんなで決めたから納得感がある」「親のために良い選択ができた」と、前向きな気持ちで暮らしを続けている様子が印象的です。
9-5. 後悔しないための共通点
さまざまな事例を見ていくと、後悔が少ないご家庭にはいくつかの共通点があります。第一に、「気になったタイミングで小さく相談している」こと。大きなトラブルになる前に、「最近少し気になる」「専門家の目で一度見てもらいたい」と動けるかどうかが、のちの選択肢の多さを左右します。第二に、「緊急のことと、将来のことを分けて考える」習慣があること。今すぐ対処すべき場所と、数年かけて考えればよい場所を整理しておくことで、判断の迷いが減ります。
そして第三に、「家族で話し合う時間を持っている」ことです。完璧な結論を出す必要はありません。「今の家、これからどうしていこうか」「どこか不便に感じているところはない?」といった、ゆるやかな会話だけでも十分です。住まいの失敗は、情報不足よりも、「話さなかったこと」「先延ばしにしてしまったこと」が原因になっていることが少なくありません。気づいた人から、少しずつ動き出していく。それが、後悔の少ない選択につながる共通点です。
第10章|当社がご提供できる“予防型サポート”
10-1. 工事ありきではない相談の場として
「相談すると、きっと工事の話をされるのではないか」「見てもらったら、すぐに決めなければいけないのでは」と不安に感じて、業者への連絡をためらってしまう方は多いものです。当社が大切にしているのは、その逆です。まずは今の住まいの状態を一緒に確認し、「緊急性の有無」と「将来的な課題」を整理することから始めます。工事を前提にしたご相談ではなく、「今の家がどんな状態か知りたい」「これから何に備えておけばよいか聞きたい」という段階でも、安心してお声がけいただける窓口でありたいと考えています。
実際に、「まだ壊れてはいないけれど、年数的に心配だから一度見てほしい」「実家の親の家の状況が気になっている」といったご相談も多く寄せられています。その場で工事の話を無理に進めることはありません。むしろ、「今は様子を見て大丈夫な場所」「そろそろ準備を考えたほうがよい場所」「できれば早めに対処したい場所」を整理し、選択肢をご説明することが、当社の役割だと考えています。
10-2. 住まいの健康診断という考え方
人の体と同じように、住まいにも「健康診断」が必要です。症状が出てから病院に行くのではなく、症状が出る前に検査をしておくことで、大きな病気を防いだり、早期に治療したりできるのと同じように、住まいもトラブルが起こる前に状態を把握することで、余裕を持った対応ができます。当社では、設備や水まわり、外回りなどを総合的にチェックし、「今の状態」と「将来のリスク」を分かりやすくお伝えすることを心がけています。
診断の結果、すぐに対処が必要な場所がなければ、それはそれで安心材料になります。「とりあえず今年は様子を見て大丈夫」「次に気をつけるべきタイミングはこのくらい」という目安が分かるだけでも、日々の不安は大きく減ります。逆に、気になる部分が見つかった場合も、「どの程度の緊急性があるのか」「どのような選択肢が考えられるのか」を、工事ありきではなく冷静に整理することができます。
10-3. 50代の方へのサポート
50代の方は、「自分たちの家」と「親世帯の家」の両方について考える機会が増える世代です。仕事や家族の予定も忙しく、「時間ができたらじっくり考えよう」と思いながら、つい後回しになってしまいがちでもあります。当社が50代の方にご提供したいのは、「今すぐ工事を決めること」ではなく、「情報を整理するための場」です。
たとえば、「築30年の自宅をこの先どう使いたいか」「実家の住まいで心配なところはどこか」といったテーマを一緒に整理し、設備の寿命やメンテナンスのタイミング、費用感の目安などをお伝えします。そのうえで、「すぐに動くべきこと」と「数年かけて準備すればよいこと」を分けて考えることで、「何から手をつければいいか分からない」という状態から抜け出しやすくなります。
10-4. 60代の方へのサポート
60代の方は、「今の家で、あと何年、どのように暮らしたいか」を具体的に考え始める時期です。お仕事を続けている方、引退された方、ご夫婦で暮らしている方、お一人で暮らしている方など、生活スタイルはさまざまですが、「これからの自分たちの身体や暮らし方に合った住まいに整えたい」という思いは共通しています。当社は、この世代の方に対して、「将来の安心を見据えた優先順位づくり」をお手伝いします。
具体的には、浴室やトイレ、階段や出入口など、毎日の動作と深く関わる場所を中心に、安全性と使いやすさの観点からチェックを行います。そのうえで、「今のうちに整えておくと安心な場所」「もう少し様子を見ながら考えてよい場所」を整理し、ご予算やスケジュールに合わせたステップをご提案します。「一度にすべて」ではなく、「段階的に少しずつ」整えていく考え方を共有することを大切にしています。
10-5. 70代の方へのサポート
70代になると、「大掛かりなことはもうしたくない」「できるだけ今の生活ペースを崩したくない」というお気持ちが強くなるのは自然なことです。その一方で、「転んだら怖い」「もし設備が壊れたらどうしよう」という不安も、より現実味を帯びてきます。当社が70代の方に大切にしているのは、「安心して暮らし続けるために、本当に必要なところだけを、無理なく整える」という視点です。
たとえば、毎日必ず使う浴室やトイレ、寝室からトイレまでの動線など、生活に直結する場所を優先して点検し、安全性や使いやすさの観点から最小限で最大の効果が期待できる改善をご提案します。また、「何かあったときはここに連絡すれば相談できる」という安心感を持っていただけるよう、説明の仕方や情報提供にも配慮しています。設備や工事の話だけでなく、「これからもこの家で安心して暮らすために、どんな準備ができるか」を一緒に考える伴走役でありたいと考えています。
第11章|世代別に考えるこれからの住まい方
11-1. 50代世帯の住まい観:これからの20年を見据えて
50代は、「子どもが独立し始める」「親世帯の介護が現実的なテーマになる」といった、人生の転換点が重なる世代です。その中で、「この家をこれからどうしていくか」という問いも、少しずつ頭をよぎるようになります。まだ体力もあり、仕事も現役という方が多いため、今すぐ困っていることは少ないかもしれませんが、「今のうちに情報だけでも整理しておく」ことが、この先の安心につながります。
50代の住まいの考え方で大切なのは、「短期的な不便」だけでなく、「10年後・20年後の自分たちの姿」をイメージすることです。たとえば、「60代になったとき、階段の上り下りはどう感じるか」「70代になったとき、この浴室やトイレは不安なく使えるか」といった視点で家の中を見直してみると、今まで気にならなかった段差や動線が、将来の課題として浮かび上がってくることがあります。それに気づけた時点で、すでに一歩前に進んでいると言えます。
11-2. 60代世帯の住まい観:無理をしない暮らしへのシフト
60代になると、「以前ほど無理がきかなくなってきた」と感じる場面が増えてきます。階段の上り下りに少し息が切れたり、重いものを運ぶのがつらくなったり、冬の冷えがこたえるようになったり…。それでも、「まだ大丈夫」「もう少し様子を見よう」と、これまでの生活スタイルをそのまま続けてしまう方も多いものです。
しかし、この年代は、「頑張る暮らし」から「無理をしない暮らし」への切り替えを意識することが大切です。たとえば、「浴槽の高さを少し低くするだけで入浴が楽になる」「手すりをつけるだけで階段の不安が減る」「掃除しやすい設備に替えることで、家事の負担が軽くなる」といった、小さな工夫が暮らしの質を大きく変えることがあります。60代は、「本格的に困る前に、将来に向けた下準備をしておける最後のゆとりあるタイミング」と言ってもよいかもしれません。
11-3. 70代世帯の住まい観:安全と安心を最優先に
70代になると、「できること」と「誰かに頼った方が良いこと」の境目が、少しずつ変わってきます。住まいの中でもっとも大切になるのは、「転ばないこと」「冷えすぎないこと」「無理をしないこと」です。これらは、どれも大げさな話ではなく、日々の小さな場面の積み重ねから守っていけることです。
たとえば、浴室や脱衣所の温度差を減らす、出入口の段差をなくす、階段や廊下の照明を十分に確保する、夜間の動線に障害物を置かない、といった対策です。また、「何かあったときにすぐ連絡できる相手がいる」ことも、精神的な安心につながります。70代の住まい方は、「できるだけ頑張る」ことではなく、「安心して暮らすために、周りの力も上手に使う」方向にシフトしていくことがポイントです。
11-4. 子世代との住まいの話し合い
住まいのことは、本来、家族全員に関わるテーマです。しかし、「親の家のことだから」と遠慮したり、「子どもに心配をかけたくない」と話題にしなかったりして、長いあいだ共有されないままになっているケースも少なくありません。結果として、トラブルが起きたときに初めて状況を知り、「もっと早く話してくれれば…」とお互いに感じることがあります。
理想的なのは、節目のタイミングで少しずつ、住まいの話題を取り入れていくことです。「この家、これからどうしていこうか」「どこか心配なところはある?」といった、ざっくりとした会話から始めてかまいません。子世代にとっても、親の住まいの状態や考えを知っておくことは、将来の安心につながります。「工事をするかどうか」より前の段階として、「情報を共有する」「考えを聞いてもらう」ことを目的に、肩の力を抜いて話し合えると理想的です。
11-5. 住み続ける選択と、住み替えという選択
築30年を迎えた家に対して、「この家に住み続けるのか」「どこか別の場所に住み替えるのか」という選択肢が頭をよぎる方もいるかもしれません。どちらが正解ということはなく、それぞれのご家庭の状況や価値観によって最適な答えは異なります。ただひとつ言えるのは、どちらを選ぶにしても、「今の住まいの状態を正しく知っておくこと」が、大きな判断材料になるということです。
たとえば、「多少の手入れで、あと20年は十分に住み続けられそうだ」と分かれば、自信を持って「住み続ける」という選択ができます。一方で、「構造や設備に大きな課題があり、今後もかなりの費用がかかりそうだ」と分かれば、住み替えを検討する材料になるかもしれません。いずれにせよ、「知らないまま何となく決める」のではなく、「知ったうえで自分たちで選ぶ」ことが、後悔の少ない判断につながります。
第12章|まとめ|気づいた人から住まいは守れる
12-1. 緊急と計画を分けて考える大切さ
ここまで見てきたように、築30年の住まいには、「今すぐ対応したほうが良いこと」と、「時間をかけて計画的に考えればよいこと」が混ざっています。トラブルが起きると、どうしてもすべてが緊急事態のように感じてしまい、「どこから手をつければよいか分からない」という状態になりがちです。しかし、実際には、優先順位を整理して一つずつ考えていくことで、冷静に対応することができます。
まずは、「安全に関わる部分」「日常生活が成り立たなくなる部分」を最優先にし、そのうえで、「暮らしをより快適にする部分」「将来への備えとして整えておきたい部分」を、無理のないペースで考えていく。緊急と計画を分けて考えることは、「全部を一度に背負わなくて良い」と、自分自身に許可を出すことでもあります。
12-2. 「早く気づく」ことが一番の予防になる
住まいのトラブルや老朽化は、ある日突然起こるように見えて、実際には長い時間をかけて少しずつ進行しています。「そういえば最近、こんなことが増えてきたな」「前と比べて、ここが気になるようになってきた」という小さな違和感に早く気づけるかどうかが、その後の選択肢の幅を大きく左右します。早く気づくことは、決して不安を増やす行為ではなく、むしろ「備える時間が増える」という意味で、とても前向きな行動です。
逆に、違和感を感じながらも「きっと大丈夫」「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしてしまうと、気づいたときにはすでに選択肢が限られている、という状況になりかねません。だからこそ、「少し気になる段階」で相談することを、自分自身に許してあげてほしいと思います。
12-3. 50代から始める備えと、60代の決断
50代の備えは、「情報を集めて整理すること」が中心です。住まいの状態や設備の寿命、これからかかりそうな費用の目安を知っておくだけでも、「何も知らないまま不安を抱えている」という状態から抜け出すことができます。そして60代は、その情報をもとに、「どのタイミングで何を整えるか」をゆっくり決めていく時期です。
すべてを一度に決める必要はありません。「この10年で、ここまでは整えておこう」「70代になる前に、この部分だけは済ませておこう」といった、ざっくりとした方針で構いません。それでも、「何となく流される」のではなく、「自分たちで選んで進んでいる」という感覚は、暮らしに大きな安心をもたらします。
12-4. 70代の安心は「ひとりで抱え込まないこと」から
70代以降の安心は、「すべて自分で頑張る」ことではなく、「必要なところで周りの力を借りる」ことから生まれます。住まいのことも同じです。「もう歳だから」と遠慮して何も相談しないのではなく、「今の家でこれからも安心して暮らしたい」と素直に伝えることが、結果的にご自身を守ることにつながります。
家族、信頼できる業者、地域の相談窓口など、頼れる先をいくつか持っておくことで、「何かあったときも大丈夫」という安心感が生まれます。住まいは、ひとりで守るものではありません。関わる人が少しずつ力を合わせることで、長く心地よい状態を保つことができます。
12-5. 築30年の家との上手な付き合い方
築30年を迎えた家は、「古くなったから終わり」という存在ではなく、「これからどう付き合っていくかを考えるステージに入った家」です。これまで家族を守ってきてくれた時間に感謝しながら、これからの自分たちにとって無理のない形に整えていく。そのプロセス自体が、暮らしを見直し、人生の次のステージを前向きに迎えるきっかけにもなります。
大切なのは、「完璧な家」を目指すことではなく、「今の自分たちにとってちょうど良い家」に近づけていくことです。気づいた人から、少しずつ。緊急のことから、順番に。家族と話しながら、一歩ずつ。そうして向き合っていくことで、築30年の家は、これから先の20年、30年も、心強いパートナーであり続けてくれます。
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